あべのハルカス近鉄本店
第一期棟「タワー館」が開業!!
時間消費型の売り場を構築
update: 2013/06/13
来春のグランドオープンに向け、建て替えを伴うリニューアル工事が進む近鉄百貨店阿倍野店。6月13日、建て替え工事が完了した第一期部分「タワー館」が先行オープンする。地下2階、地上14階の16層で、百貨店売り場の中核部分に当たる。非物販のスペースを大きく取り、時間消費型の商業施設に生まれ変わる。
イベント、非物販スペースで来店と購買を喚起
今年5月に発表されたストアコンセプトにある通り、非物販部分の面積比率が25%を占める時間消費型の百貨店に位置付ける。各所にイベントも開催できる4つのスペースを確保し、また各階のエスカレーター横にはレストスペースを設けた。「お買いもの目的でなくても来店して売り場を見てもらい興味を抱いていただければと考えている。その結果、購買につながれば理想的だ」(中田基之・取締役専務執行役員本店長、新本店準備本部担任)と非物販ゾーンの相乗効果に期待を寄せる。
この時間消費型施設という発想は昨秋開業した阪急うめだ本店と共通したコンセプトだ。阪急百貨店は物販だけでは差別化、住み分けが難しいと判断し、「モノ」に加えて「コト」の提供に力を入れた。新本館の9階から11階にかけて造られた吹き抜けの大きなイベント空間「祝祭広場」がその象徴的なものである。近鉄百貨店阿倍野店改め「あべのハルカス近鉄本店」では、「祝祭広場」のような規模はないが、地階と地上階3カ所に計4つの空間、広場を設けた。「強みはお客様に集まってもらえる4つの広場」(中田本店長)と自信をのぞかせる。
ちなみに今回の店舗改称で初めて「本店」の2文字が加わった。従来も実質的な本店機能を有していた阿倍野店だが、建て替えリニューアルを機にフラッグシップとして明確に位置付ける狙いがあると思われる。
従来顧客と新規客へアピール
想定する商圏は地元住民をはじめとする電車で30分圏内の260万世帯、620-630万人。年配層を中心とした従来の顧客が主要ターゲットであることに変わりはないが、ニューファミリー層やヤング女性など新規の客層も取り込もうとしている。
内装は天井部分に装飾を施した2階の化粧品・婦人洋品雑貨フロアをはじめ、レディス、メンズ、キッズ、インテリアなど各売り場で見え方を変えた。庶民派の百貨店という印象の強かった“あべきん”(阿倍野近鉄)だったが、今回の建て替え・改装を経ておしゃれな空間の売り場に生まれ変わった。壁面は各階共通で、主力ブランドのコーナー店舗が並ぶ。中央の平場部分は自主編集売り場を配したフロアもある。展開テナントは百貨店で見掛ける平均的なブランドが多い。しかし従来もそういった編集方針だったし、店舗全体のコンセプトでも「フルターゲットストア化」を謳っているため、特に問題はないと思われる。
従来顧客と新規客を同時に狙う試みの1つが、7階メンズスーツ売り場の「メジャーメイド」。オンワードが開発した「3Dバーチャルオーダー」を全国で初導入した。タブレット端末の画面でスーツ生地の種類や色柄を自在に変更し、出来上がりのスタイルを確認できるシステムで開発に1年を要した。生地のしわ感など「実際の生地の表情を忠実に再現できるよう苦心した」(オンワード樫山メンズビジネス事業本部、五ノ井唯夫パーソナルオーダー商品部商品課課長代理)。シニアのイメージが強かった従来のオーダースーツ売り場の印象を変えて、若い人など新規客を呼び込む狙いもある。裾値は3万9,900円(税込み)で、通常6万円前後のフルオーダースーツとしては破格である。オーダーされた内容や履歴はデータとして保管ができる。次の来店時の接客もやりやすくなる。スーツのほかジャケットやカジュアルパンツのオーダーも受け付けている。半年後には、店頭から受注データを直接工場へ送信するシステムの実用化も視野に入れている。
なお6-7階と2フロアを「近鉄メンズ」と名付け、ブランド色をやや抑えて内装や什器に統一感を出して売り場に一体感を出す試みを行っている。すでに伊勢丹や阪急百、髙島屋などで実施されているが、近鉄本店でも統一感のあるフロアが構築された。
百貨店と専門店との融合目指す
今回は今秋、来春と続くリニューアルオープンの第一弾のため、あべのハルカス近鉄本店の全容はまだ見えてこない。今秋・来春と2階に分けて開業する専門店を主体とした「ウイング館」が揃うと、全体像が見えてくるだろう。また近鉄本店との住み分け、相乗効果を発揮するために、同地区内に展開する同グループのファッションビル「Hoop」や「and」の売り場再構築も計画しているという。
あべのハルカス近鉄本店において専門店の占める比率は40%と高い。うち80%以上がウイング館に集中する。1万1,000㎡のスペースに100店舗が出店する予定だという。中田店長は「専門店の比率が多い点も作戦の1つ。百貨店との融合を狙っている」と語る。また、タワー館の最上階部分12-14階の3層で展開する飲食街「あべのハルカスダイニング」も44店、2,800席という規模で大きな集客装置になる。
課題は新しくなった売り場レイアウトに顧客が慣れるまで時間がかかること。建て替え工事中に何度か既存店舗のレイアウトが変わったが、そのたびにクレームの一因になっている。来春のグランドオープンまで、イレギュラーな店舗運営が続く。
(樋口尚平)