オンワードホールディングスグループ
オンワード樫山のOMO型業態「オンワード・クローゼットセレクト」──オンラインとオフラインの強みが融合、顧客の囲い込みが進む
update: 2024/05/27
《企業レポート》
オンワードホールディングスグループの中核を担うオンワード樫山が手掛けるOMO(Online Merges with Offline =オンラインとオフラインの融合)型店舗「ONWARD CROSSET SELECT(オンワード・クローゼットセレクト)」が順調に店舗網と売上規模を拡大している。2021年春の立ち上げ後から着実に出店が増え、今春には137店まで広がった。2023年度は前年比30%増と2ケタの成長を果たした。販売や企画スタッフの意識改革など当初、想定していなかった相乗効果も表れている。
地域や立地などを考慮、各店に適した商品構成
OMO=Online Merges with Offline という、オンラインとオフラインの融合を目指した「ONWARD CROSSET SELECT(オンワード・クローゼットセレクト)」は、複数の自社ブランド品で構成するセレクトショップ業態だ。2021年4月、「店舗のブランドの複合化」を目指してスタートした。実店舗とオンライン=ECサイトをつないで、売上増や顧客対応、在庫管理など様々な要素の効率化を図るのが大きな目的だった。
出店する販路は、百貨店とショッピングセンター(SC)がメーン。顧客層やその動向は、販路やメンズ・レディス等で少しずつ異なっている。百貨店はやや年齢が高めの顧客が多い。都市部の店舗ではコロナ禍の影響もあり、レディス売り場の再編により効率化が求められる背景があった。地方店では手ごろな価格の商材を求めるニーズがある。一方SCでは若い層も多く、幅広い客層が訪れることもあり、手ごろな価格の商材が中心だがブランドの種類も多くなる。
このように店舗特性が一様ではないため、各売り場に適した商品構成を考える必要があった。その点、複数ブランドで構成するセレクトショップ業態なので、販路や立地の特性に応じ、そのラインナップを変えられる強みがある。商品企画担当に加えて、各エリアの顧客動向を把握している現場寄りのスタッフを交え、ブランドや揃えるべき商品の構成を決めている。各店の顧客像を念頭に置いたラインナップが受け入れられているようだ。
企画と販売スタッフのスキルアップ、意思疎通にも効果
売れ筋ブランドは、やはり規模の大きい「23区」が主力になる。SCでは、「UNFILO(アンフィーロ)」が健闘している。複数のブランドを1つの店舗で扱う体制のため、例えば「アンフィーロ」など単独で展開するにはアイテムが足りない新興のブランドでも、継続して販売できる利点がある。「積極的に売りたい商材に欠品が出ないよう奥行きを作るなど、思い切った施策を採ることができる」(オンワード樫山、前川真哉 OMO Div.部長)。各ブランドで補い合うことで、リスクヘッジにつながっている。
店頭で試着ができるサービス「クリック&トライ」も売上増に貢献している。「オンワード・クローゼットセレクト」に限らず、ほかのブランドでも採用しており、導入店舗数は2023年度末で397店舗(57増)まで拡大、導入率も58%(16ポイント増)に達した。同サービスを導入した店舗の売り上げは、コロナ禍前(2019年度)を上回り、16%増と健闘した。
店舗運営や販売の効率化のほかにも、様々な相乗効果が表われている。その最たるものは、企画や販売スタッフの意識改革が進んだこと。セレクトショップ業態のため、販売員が以前に接客・販売したことがないブランドの情報を得る必要性が高まってきた。また、顧客に説明するため、「クリック&トライ」など新しいシステムの仕組みを理解することも必須条件になりつつある。
社内では定期的に企画や販売スタッフが集まり、各ブランドの説明や接客の成功事例などを細かくパターンに分けて、共有する機会を設けている。ベテランの販売スタッフにはシステムを理解する、若手には高度な接客ノウハウを知るまたとない場になっているようだ。企画スタッフも現場の声を実地に聞くことができるため、次シーズンへの商品構成のヒントを得ることができる。「成功事例を共有することで、スタッフの質の底上げにつながっている」(前川部長)。
既存の資産を有機的に組み合わせた成果が形に
「オンワード・クローゼットセレクト」の成長や「クリック&トライ」のサポートも後押しして、同社グループ全体のEC売上は2023年度で477億円(6.5%増)と順調に成長した。うち自社ECは409億円(6.4%増)で、EC売上の85.9%を占める。連結売上高の31%が百貨店、SC他が39%、そしてECが30%の比率である(2018年度は14%だった)。バランスの取れた構成と言えるだろう。
OMOやDTC(Direct to consumer)などECに関連する“横文字”が持て囃されて久しいが、目に見える形で実績を積み上げているアパレル企業はまだまだ少数派だろう。オンラインで立ち上げたブランドではなく、卸やSPAなど実店舗で業容を拡大してきた企業はなおさらだ。
同社がOMOで一定の成果を挙げられている背景について、前川部長は「自社ECがある程度の規模感で運営できていたこと、減りはしたが実店舗も複数の拠点があるし、倉庫(物流)機能も充実している。(OMO展開に必要な)既存の資産が揃っていたから、オンラインとオフラインとの融合がうまく行ったと考えている」と説明する。「対応が遅い点もあり、まだまだ課題は多い」と言うが、一定の方向性を示せただけでも大きな功績だろう。今後の推移が興味深い。
(樋口尚平)