「あべのハルカス近鉄本店」開業から1年が経過
顧客が増加傾向、売り場の認知度向上が今後の課題
update: 2015/04/06
昨年3月7日にグランドオープンした大阪・阿倍野の複合商業施設「あべのハルカス」。その核テナントとして出店したのが旧・近鉄百貨店阿倍野店の「あべのハルカス近鉄本店」である。10万㎡の店舗面積において、売り場の40%を専門店で構成するという従来型とは異なる百貨店を提案した。年間売上高は923億円で、目標の1,040億円には届かなかったが、レディスファッションで利益目標を達成するなど、巷間伝えられているマイナス面ばかりではない。ファッション部門を統括する家村洋・営業統括本部 本店副本店長の話を基に、「あべのハルカス近鉄本店」の初年度を振り返った。
レディスファッションは利益目標を達成
地上60階、高さ300mの展望台が象徴するように、「あべのハルカス」は時間消費型の複合商業施設である。そのシャワー効果を狙い、下層階の物販ゾーンで来館客を取り込むという狙いだった。昨年3月の開業時はエンドユーザーの関心が加熱し過ぎ、安全確保のため一時的にエスカレーターを停止しなければならないほどだった。旧来の百貨店顧客以上に、新規の来館者が多かったことを意味する。こうした新規客を顧客につなげる狙いがあったのだが、うまく行った部分と修正を余儀なくされた部分とがあった。
旧・近鉄百貨店阿倍野店(現・ウイング館)の店舗面積が約4万3,000㎡で、増築された「タワー館」が5万7,000㎡。売り場面積が倍増したわけだが、2館の連絡=回遊性が不十分だったことが、売上不振の理由の1つだと分析する。「建て替え工事の影響も大きかった」(家村 副本店長)。展望台のあるタワー館の回遊性が良く、旧店舗のウイング館が分かりにくくなっている面は否めない。しかしウイング館でも4階レディスの「Lサイズ」コーナーなどタワー館以上に高効率の売り場もあるし、一方で一気に面積が拡大しタワー館6-7階のメンズは効率が落ちている。売り上げ効率の面では、まだら模様のようである。
その中で、健闘したのが主力のレディスファッション。「売上目標は未達だが、利益面は目標を達成した」(家村 副本店長)。中でも、1階の特選品や2階の化粧品、身の回り品がけん引役になっている。隣接する天王寺駅から回遊しやすいこともあるのだろう、顧客も付いてきているという。比較的買いやすい雑貨類はメンズも健闘しているし、子供服関連フロアも好調だという。メンズシューズの高価格帯も若い世代にも買われていると言い、ファッション関連売り場の認知度は順調に高まっているようだ。「40-50代が増えて、60代は現状維持、70代が減っているようだ」(同)。客層の幅は着実に広がっている。
「あべきん」と呼ばれ、親しみやすい大衆向け百貨店として認知されてきた近鉄百貨店阿倍野店。「あべのハルカス近鉄本店」に様変わりし、少し感度の高いファッション提案を目指したようだ。今までバーゲンをやり過ぎていたきらいがあったと言い、こうした施策を見直した面もあった。ターゲット層を見直した開業前の建て替え工事、および開業当初のオープン景気による過度な混雑なども重なり、従来の百貨店顧客の足が遠のいていたことは確かだという。ようやく入館客数も落ち着いて、従来の顧客が戻ってきている節があるようだ。現在はレジ客数も増加傾向にある。
ヤングレディスの「ソラハ」をテコ入れ
足を引っ張ったのは、ヤングレディス狙いの「ソラハ」だった。こだわりのショップが多く、ショップの完成度も高かったというが、「2年前までに売り場の図面を完成させなければならない制約があったことや、ファストファッションの台頭も大きかったが、苦戦したのは事実」(家村 副本店長)とうまく行かなかったことを認めている。五月雨式の開業スケジュールもマイナスに働いたようで、うまく「ソラハ」の知名度を広げることができなかった。小売店は全て売り上げという結果で判断されるため、厳しい見方だが初年度は失敗だった。「ソラハ」は現在、縮小・改装し、テコ入れを図っている。
6階ウイング館の「スポーツライフ」も苦戦傾向だった。靴を試履き・試走できる「トライアルコース」を設けていたが、効率化のため、運営を止めた。また今年3月をめどに、各階で自主運営売り場を縮小している。旧店舗より家賃が高くなっている影響もあり、売り場運営において一層の高効率が求められている。
2年目の課題は、「優秀な販売員の確保と顧客の囲い込み」(家村 副本店長)。開業から1年が経過したが未だに売り場の認知は低い状態だという。しかし、各フロアに設けている「ポップアップショップ」のコーナーは反応がいい。旬の雑貨ブランドを扱う2階の「トレンドエキスプレス」は前年比60%増と軌道に乗ってきた。開業景気、消費増税、マス媒体の報道が一段落した2年目が、「あべのハルカス近鉄本店」の地に足を付けた運営が試される。
(樋口尚平)