ビジネスモデルの劣化をどうする?ジーンズ&カジュアル店
update: 2014/11/18
百貨店などでの高級品の売れ行きの好調さを別世界と感じるほど、大方のカジュアル専門店の伸び悩み基調が続いている。特に大手ジーンズ系カジュアル店にとっては、かつての新規出店ブーム、PB商品の拡張による粗利益の増額持続といったプラス連鎖のビジネスモデルの枠組みが崩壊し始めているようだ。
●激減する増収増益決算
大手10社の決算状況をみると、「増収(売上高)増益・(営業利益ベース)」はユニクロのみである。他の9社の内、増収企業はしまむらとパル、そして合併効果のあったアダストリアHD(ポイント)の3社だけという寂しい状況だ。これらはすべて消費税率アップ以前の成績であるから、その点は関係ない。またすべての不振がユニクロに顧客が奪われているからだといった印象もあるようだが、少なくとも全体的な数字の上での根拠はほとんどない。
●売り上げ減の直接原因は店舗数減
特にジーンズ系3社(ジーンズメイト、マックハウス、ライトオン)の動向をユニクロ(国内)と比較してみよう。ジーンズ系3社がほぼ常に売り上げが昨対割れを続けている。また一方国内ユニクロも決して「躍進」といえるほどの増収傾向ではない。
これら売り上げ減の直接的な原因としては客数減、客単価減などが考えられる。しかし、客単価は回復上昇傾向にある。やはり店舗数の減少が主な原因である。一方のユニクロはここ2~3年間は年間10店舗以内と店舗数の新設は少ない。そんな中、2011年に下落した売上は13年にかけて上昇している。ヒートテックなどの開発商品の客寄せ効果やバーゲン比率の減少などが貢献しているようだ。
一般的に言って、保有する店舗数の減少に対応する新たな商品対策にはかなりの努力が必要なようだ。
●カジュアル衣料市場は飽和状態か
ここで広く消費市場全体を見てみよう。ジーンズカジュアル小売市場規模は2008年をピークに約1兆3,000億円規模から2012年には約1兆1500億円へと約10%以上もの消費金額が縮小している。
一方で小売店舗数の伸びはどうか。特にショッピングセンター(SC)の動向をみると、いわゆる改正都市計画法(旧都心の再活性化のための大型出店規制)への駆け込みオープンの多かった2007年がピークで、特にジーンズ系カジュアル専門店はこの時期の周辺で郊外立地を中心に多くの出店を重ねた。時代の総需要低迷を無視したオーバーストア現象であり、顧客の奪い合いという現象を起こしてしまった。出店オープンにより新たな地域市場を掘り起し、ジーンズカジュアルの消費をうながしていくハッピーなビジネスモデルが稼動しなくなった背景がここにある。
●縮小均衡のハードルは販管費
売り上げが伸び悩み、縮小均衡しながら利益を生み出すには経費である販売管理費(販管費)を削減する必要がある。各社ともその努力には怠りないが、それがままならない。 特に人件費はすぐには圧縮出来ない性質がある。「小売の繁栄はまず人から」という言葉があるように熟練の接客手法を若い人への伝承するなどの課題もあり、この点の合理化は難しいハードルのようだ。
●商品原価(仕入コスト)の削減と海外生産
それでは肝心の仕入れコストを削減する手段の方はどうか。海外特に中国に依存した生産コストの削減には先行き不安材料が多い。「プラスワン」の合言葉ではないが、各社とも脱中国の動きは活発になってきた。ユニクロはバングラディシュやベトナムへのシフトを強化しているし、ハニーズのミャンマーでの工場建設は拡張の第二段階に入った。されど長い目でみて、アジアの発展とそこでの調達コストの上昇は避けられないと予想される。
●成長ビジネスモデルの劣化と対応
カジュアル衣料の過去の成長を支えてきた要因とそれに対応するビジネスモデルには「劣化」が見られる。他社との競合を意識しつつ継続する出店政策、コストダウンを図るPB比率の拡大や海外生産の拡充や直接取引などに将来的には不安材料も見えてきた。日本全体の雇用環境の変化で店スタッフの賃金も上昇傾向だ。
では今後どのような方策が考えられるのだろうか。業態ブランドの競合他社との同質化が減益の主原因の一つとみられる。
●業態多様化と海外進出
業態多様化と海外進出が今後の戦略項目の大きな候補に挙がるであろう。業態数の最も多いのはパル社、ついでアダストリアホールディングス社で、ジーンズ系3社は業態数は6~7ブランド(屋号)となっているが、実態はメインブランド業態への依存度が高い。
一方海外出店については、設定価格の課題、途上国でのSPA生産との連動などの枠組みがあり、10社の内、4社が海外店舗を持つ形になっている。コックスなどのようにイオングループの海外店舗との連動でアジア進出を狙う戦略もあったが、商品内容や価格設定などのハードルもあり、ここしばらくは市場開拓研究中のようである。
●長期化するかビジネスモデルの再構築
業態多様化や海外進出を実行しなくても、国内で差別化やニッチ市場を探して活路を開く戦略も当然あり得るが、狭い日本で少子高齢化の進む社会構造ではやはり海外市場への展望を視野に入れることは必要であろう。「ジャパン・メード」や「クールジャパン」の象徴的な言葉に代表されるように、日本の先進的なカジュアルファッションを情報発信する先兵としての役割を果たす意義も期待される。しかし業態多様化には人材や組織の強化が、また海外進出には現地の消費文化や価格の研究などをこなしていくなど先の長い忍耐力が必要なようだ。
(J&CR Vol.31ダイジェスト版 甲賀一郎)
資料・大手カジュアル専門店の動向
資料・基礎データ カジュアル大手10社の決算データ(一部中間決算)