2022年シーズンのスポーツ市場を展望する
完全復調にはまだ道半ば
update: 2022/01/04
2021年シーズンのスポーツ業界において、最も大きな出来事と言えば、東京オリンピック・パラリンピックが開催されたことだろう。無観客という異常事態だったが、日本代表選手は過去最多の58個のメダルを獲得し、大いに盛り上がった。無観客、自粛要請の影響でレプリカウエアなど五輪関連商材は伸び悩んだが、スポーツ市場にもたらしたプラスの影響は大きかった。ようやくコロナ禍から復調しつつあるスポーツ関連企業だが、今後の推移が不透明のため、慎重な姿勢を崩していない。先行きが見通しにくい商況下で、2022年はどんな1年になるのか、展望した。
拍車が掛かるDTCへの取り組み強化
感染予防対策として、人が集まらないように要請されている現在の日本社会において、屋外や密になりにくいスポーツ種目が人気を集めるようになった。この傾向は2020年から見受けられたが、基本的な傾向は2022年も続きそうな状況だ。おしなべて堅調な分野はアウトドア関連。登山やトレッキング、キャンプなどのアウトドアのほか、野球やサッカーなど屋外競技も安定している。登山は年配層の戻りが遅いなど懸念材料もあるが、室内競技などと比較すれば、被害は軽いと言えるだろう。
個人種目ではランニング関連が堅調。ここ数年、世界的に不調だったゴルフ市場も、新規ユーザーの参入もあり元気である。“アスレジャー”という、スポーツを意識したファッション分野も定位置を占めるようになった。スポーツの主要各社のコメントを見ても、基本的な傾向──トレンドは2021年と大きく変わらなさそうな状況だ。
NIKE,INC.(ナイキ社)がその強化を標榜してから、スポーツ業界でも注目度が高まってきたのが「DTC」(Direct To Consumer)という言葉。2020年、2021年の展望でも取り上げたが、メーカーが直接エンドユーザーとのつながりを強化している。既存の販路──代理店や小売店との関係は良好に保ちつつ、共存共栄を図れる形で自ら顧客に自社製品を販売しようという動きだ。直営店舗やECサイト、催事での販売などがそれに該当するが、複数の販路を有機的につないで、どのタッチポイントでも顧客が製品に触れ、購入できるような仕組みを構築しようとしている。
流通のあり方が変わろうとしている
国内の主要な上場スポーツ企業の第2四半期までの業績推移を見ると、増収増益基調である。利益額が過去最高を更新した企業も複数あった。しかし、売上高は一昨年の2019年を下回っているところが大半だった。この観点から見ると、スポーツ市場の回復はまだ不十分だと考えられる。
国外市場の動向にも凸凹が見られる。昨年はコロナ禍からの回復が最も早かった「Greater China」(中華圏)だが、現在はその勢いが鈍化している。「North America」(北米)や「EMEA」(欧州・中東・アフリカ)などは回復が遅れたものの、昨今は回復傾向が強くなってきた。
各社共通した懸念材料の1つに、物流の停滞がある。コロナ禍の影響は、感染拡大から物流の停滞へとその内容が変わりつつある。顧客の購買力が回復しても、“売るもの”が無ければ収益を上げられない。安定的に継続した収益を確保するにはどうすればいいか──。顧客を囲い込むという、前述したDTCへの取り組みは、その答えの1つだろう。アパレル業界に比べればスポーツ業界の変化は緩やかであるが、それでもスポーツ企業のSPA(製造小売り)化は今後も続くだろう。
スポーツ系小売店もその在り方を問われることになりそうだ。昨年8月、米国のスポーツ系小売店、Foot Locker,Inc.(フットロッカー社)が日本の「atmos」(アトモス)の屋号でスポーツ系スニーカーやアパレルを手掛ける株式会社テクストトレーディングカンパニー(東京都渋谷区)を買収した一件(2021年8月6日の配信を参照: http://www.apparel-mag.com/sbm/article/corporate/2147 )は象徴的である。日本国内のスポーツ小売店の淘汰は10数年前に一段落しているが、第2の波が来る気配。アパレル業界では、流通のあり方が大きく変わろうとしている。スポーツ業界も例外ではない。