ミズノ、取締役 グローバル・ダイアモンドスポーツ事業・スポーツ事業部 通販・コーポレートアパレル営業部・スポーツプロモーション部 担当、鶴岡秀樹 氏
2012年度のテーマは“挑む”
update: 2012/03/12
野球も競合過多に
ミズノの柱の1つであるダイアモンドスポーツ事業は、ベースボール、ソフトボールを中心とした分野だ。少子化や他種目との競合などにより市況は厳しいが、国内は微増、海外も現地通貨ベースで増収を達成した(4-9月の第3四半期)。海外で主力の米国は3-4%増だった。トッププレーヤー層に向けた新しいブランド「グローバルエリート」の健闘が大きかった。“軽さ”を特長にした同ブランドは2010年のデビュー以降、着実にトップ層の支持を集めてきた。既存のハイエンドライン「ミズノプロ」に次ぐ柱に成長してきた。同事業を統括するミズノの鶴岡秀樹取締役に今期の総括と来期の課題を聞いた。
ベースボールが健闘
鶴岡取締役はダイアモンド事業のほか、通販・コーポレートアパレル営業部やスポーツプロモーション部の担当も兼任する。主力のダイアモンド事業は「グローバルエリート」の貢献により堅調な推移だった。
「昨年3月11日に発生した大震災の影響もありましたが、特に東日本のスタッフがたいへんがんばってくれたため、第3四半期では前年を上回っていると認識しています。ベース―ボール分野で一番大きかったのは『グローバルエリート』。バット、グラブから手袋に至るまで、高いレベルの選手が望んでいた“軽さ”という要素を追求したモデルです。既存の『ミズノプロ』と同じシリアス層を狙っているのですが、『ミズノプロ』のファンを減らさずに『グローバルエリート』のファンがプラスアルファで増えてくれた。『ミズノプロ』の黒と金色を基調にしたイメージとは別の、非常に軽くてカラフルなイメージを『グローバルエリート』で発信したため、目新しさが受けたのではないでしょうか。市場調査では『ミズノプロ』寄りの要望が多かったのですが、『グローバルエリート』のニーズも一定数存在したのだと思います。本筋から違う方向へ向かうのはとても勇気のいることですが、想定通りの新しいユーザー層を取り込むことができました」
「好調の2つ目の理由は、『ダイアモンドヒーロー』です。アパレルなど従来はダークな色使いの野球人が好むようなデザインが多かったのですが、『ダイアモンドヒーロー』ではカラフルで新しいデザインがパーソナルユースで支持を集めました。ヒントは当社が用具使用契約を結んでいるメジャーリーガー、イチロー選手。彼がトレーニングの時に着ていた当社の『クロスティック』というトレーニングウエアでした。マルチパネルのカラフルなデザインで、これだけ高いレベルの選手がこういったウエアを好むのかと思いました。ユーザーの反応は想定通りだった面もありますが、問題は今後、他社が追随してきたときにきちっと当社の商品が差別化できているかどうか、でしょう」
「もう1つ、好調の裏にはキッズの健闘もあります。キッズ関連の野球用品をトータルに揃えたコーナー『やきゅう基地』も好調に推移しています。幼稚園児から使える本格的な野球用品『ワイルドキッズコレクション』も好評です。今考えてみると、なぜこうしたキッズ向けのモデルがなかったのか不思議ですが...そこは市場の本筋ではない、という認識が強かったのでしょう。ただ市場環境が変わってきた現在では、そういったニーズも増えているのだと思います。『やきゅう基地』はスタッフの1人から上がってきたアイデアでした。また、当社の契約プロ――ミズノ ブランド アンバサダーと子供たちが共同開発するというコラボレーション企画も現場の声だったのですが、これは即決でした。誰も反対意見もありませんでした」
日本市場と肩を並べる規模に成長してきた米国の野球ビジネスも目下、順調である。現地通貨ベースだが、対前年比103-104%の推移だった。同社のベースベールビジネスの軸足は当然、国内市場にあるが、米国も重要な市場の1つであることに変わりはない。
「米州のダイアモンド事業は高価格帯に注力してきた結果、ここがけん引役になっています。1978年にワークショップを大リーグに持ち込んで以降、『ミズノ』ブランドのグラブはカスタムという認識が定着していきました。また、フットウエアや手袋も好調です。高価格帯の商品が好調のため、さらに幅広い高価格帯のモデルも投入する予定です」
ソフトボール市場も強化分野の1つに掲げている。女子選手に注目が集まりがちだったが、男子の市場にも可能性を感じている。
「ソフトボールの男子は女子以上に市場がある。遅ればせながら注力していきたいと思います。世界には豪州やニュージーランドといった男子ソフトボールの強豪が存在します。日本のレベルもたいへん高いし、日本のプロ野球球団、ファイターズに入団したソフトボール出身の大嶋匠選手の出現も市場にとって大いにプラスになります」
「グローバルエリート」や「ダイアモンドヒーロー」「やきゅう基地」が貢献し目下、堅調な野球ビジネスだが、楽観視はしていない。
「外資系の『ナイキ』『アディダス』『ローリングス』『アンダーアーマー』など野球を再強化する、あるいは新規参入するブランドは強敵です。私はまだ『ミズノ』が日本市場で4番手、5番手だったころに入社したため、当時の『どうやったらプロに認められ、またシリアス層へ浸透していけるか』がんばっていたころの感覚が抜けていません。市場から求められているものを地道にメーカーとしてしっかり作り上げ、エンドユーザーにアピールする方法を間違わなければ、市場のシェアを確保できると思いますし、また確保していかなくてはならないと思います」
「われわれの強みになっているのが『BBS』(ブランドビルディングスタッフ)と呼んでいる営業促進スタッフ(店頭のイベント支援)です。現在11人まで増えました。リペア(修理)技術やグラブの型付けをしやすくするスチーマーの導入を推進しています。型付けサービスも3年目を迎えました。修理などのサービスによって顧客になってくれる可能性が高まるわけです。全社方針の中で掲げている『専門店化』というのはこれに当たります」
通販は非スポーツチャネルを開拓
新規開拓分野として期待を掛けているのが「通販・コーポレートアパレル営業部」だ。通販課では「ジャパネットたかた」が主力。コーポレートアパレル課では、企業のユニフォームを製作している。なかでも通販課は非スポーツチャネルを中心に開拓しており、その伸び代は大きい。
「通販で向き合うお客様は『ミズノ』のロゴと無縁な方が多い。したがって、お付き合いしたところがすべて新規になります。象徴的なエピソードが『じつは! 腹筋くん』。最初に扱ったのは当社の野球を担当するスポーツ事業の部署でした。その時は累計で1万台も売れませんでした。スポーツチャネルの需要がそれくらいだったのでしょう。ところが『ジャパネットたかた』で通販用にマイナーチェンジして上代も買いやすい設定に変えて販売したところ、1年半で累計24万台も売れました。『ジャパネットたかた』でも20万台以上売れるケースは少ないそうです」
「また別途、ケーブルTVの通販番組でハイヒールのウオーキングシューズを販売したところ、放送時間内に完売するサイズもありました。しかしこのシューズをスポーツチャネルで販売したら、答えは『NO』だったでしょう。ハイヒールは機能面で疑問符を付けられたと思います」
「通販・コーポレートアパレル営業部」の2011年度見通しは売上高41億円(対前年比120%)。近い将来には、100億台の実現も夢ではないと見ている。
「こういった新しいニーズや可能性はまだまだ埋もれているはずです。もっと探そうと考えています。2012年度の方針が“挑む”です。来期はますます競合が激しくなると思います。だから私たちは野球でも挑むし、通販・コーポレートアパレル営業部でも挑みますし、ロンドンオリンピックでも挑みます。すべての取り組み分野について、“挑む”年度になるでしょう」
鶴岡秀樹(つるおか・ひでき)氏1959年生まれ。84年ミズノ入社。99年スポーツ事業部野球販促部次長。02年スポーツ事業部ダイアモンドスポーツプロモーション部長。03年スポーツ事業部長。04年取締役(スポーツ事業部担当)。04年10月グローバルダイアモンドスポーツ事業・スポーツ事業部担当。11年6月から現職。