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デサント、ワコールホールディングスが包括的業務提携契約を締結
女性意識した新コンセプトのブランド立ち上げ

update: 2018/08/31

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資本提携、経営統合は考えず

「デサント ブラン」(藤井大丸店)。 タウンユースを意識した スポーツライフスタイル分野の開拓も進めている

「デサント ブラン」(藤井大丸店)。
タウンユースを意識した
スポーツライフスタイル分野の開拓も進めている

デサントは国内スポーツメーカーの中でも、特にスポーツアパレルを強みにしている。スキーウエアで培った高機能アパレルのノウハウを活かし、主力ブランドの「デサント」のほか、「ルコックスポルティフ」「アリーナ」「マンシングウェア」「マーモット」など、アスレチックやゴルフ、アウトドア関連ウエアを主力にする。今年7月には、大阪・茨木市にアパレルの開発拠点「DISC」を開設し、運営を始めたばかりだ。また、「デサント ブラン」など、タウンユースを念頭に置いたスポーツライフスタイルのショップ展開も進めており、アスレジャー市場の開拓にも力を入れている。

一方のワコールHDは、主にレディスインナーにおいて国内で高いシェアを有している。ワコールのスポーツとの接点は、コンプレッションアンダーの先駆けになった「CW-X」(シーダブリューエックス)が主なものだ。そのほか、フィットネス系水着の開発も手掛ける。「CW-X」では、インナー開発で培った技術を、サポーター機能を有するスポーツ向けのアンダーウエアに活かした。当初はスキーヤーのアンダーウエアとして認知を広げたが、元メジャーリーガーのイチロー選手など、プロスポーツ選手が着用するようになると、トレーニングシーンへも市場が広がった。現在では、マラソン大会において欠かせないアイテムになっている。

デサントの2018年3月期の連結売上高は1,411億円、営業利益は95億円。ワコールHDの2018年3月期の連結売上高は1,957億円、営業利益は125億円。今回の包括提携により、売上高3,368億円、営業利益220億円の“機能アパレル”を強みにする企業グループが誕生することになる。これは国内アパレル系メーカー最大手のワールド(連結売上高2,458億円、営業利益132億円=2018年3月期)やオンワードホールディングス(連結売上高2,430億円、営業利益51億円=2018年2月期)の収益を上回る規模だ。

一部の報道や、会見時に複数のメディアが質問で取り上げた「資本提携、経営統合」については、明確に否定した。デサントの株式25%を保有する伊藤忠商事が収益性の高いデサントに対する影響力を高めようとする方針に対抗する施策という見方もある。かねてスポーツ業界では公式、非公式に口端に上ってきた話題だが、デサントは公式の場で否定した。

【解説】「アスレジャー市場に活路を求める両社」

スポーツとファッションが融合した“アスレジャー”という新しい市場が形になりつつある昨今、デサントはスポーツウエア、ワコールはレディスインナーというそれぞれに強みとする関連アイテムがあったことは大きなメリットだ。いずれの商材もアスレジャー市場と親和性が高い存在である。

「ルルレモン」ブランドで火が付いたアスレジャーだが、本国・米国ではフィットネスウエアの色合いが強い。日本ではボディコンシャスで身体のラインがはっきり出る米国版アスレジャーはそのまま受け入れられなかった。最もよく見かけるのが、ヨガスタイル。機能素材を使ったデザイン性を加えたスポーツウエアは身体を覆い、ボディーラインを隠す。かつ着心地が良いため、リラクシングウエアとしても重宝する。汎用性が高い点もプラス要素だ。こうした多面性を持ったウエアが、日本市場ではアスレジャーとして認識されている。

こうした市場環境を鑑みた場合、スポーツウエアを強みにするデサントと、レディスインナーを強みにするワコールがアスレジャー市場に活路を見出すことは合理的だと言えるだろう。新しい市場の開拓は、まさにこのアスレジャー市場が舞台になる。ただし、今回の提携により、同業他社で同様の動きが顕在化するかは未知数である。しかし、スポーツとファッション業界の双方に、大きなインパクトをもたらす業務提携であることは間違いないだろう。