アミノ酸とアパレル製品の不思議な関係
第2回)アミノ酸はどのように利用されてきたか
1806年フランスでアスパラガスの芽から初めてアミノ酸が発見され、「アスパラギン酸」と名づけられました。以来「システイン」、「ロイシン」、「グリシン」等が相次いで発見され、1935年までには、たんぱく質を構成する全てのアミノ酸が発見されました。
日本で私達が最初に直接アミノ酸の名前を知ったのは、調味料として食卓に乗った小瓶のグルタミン酸です。これは、1866年ドイツで小麦のたんぱく質であるグルテンから発見され、「グルタミン酸」と名づけられたものです。その後、1905年に日本の池田菊苗博士が昆布のうまみが「グルタミン酸」であることを発見、アミノ酸が手近なうまみ成分として商品化されました。今日大手食品メーカーに成長した「味の素」社のルーツです。 これを契機にアミノ酸はいろいろな面で我々の生活に関わりあるものとして出来てくることになったのです。その中での主な関わりについて述べてみたいと思います。
1)身近な食への用途がまず主流に
うまみ成分としてだけではなく、甘味成分、苦味の成分としてもアミノ酸は我々の生活に深く関係しています。うまみ成分としては「グルタミン酸」、「アスパラギン酸」、甘味成分としては「グリシン」、「アラニン」、「スレオニン」、「プロニン」、「セリン」、「グルタミン」、苦味成分としては「フェニルアラニン」、「チロシン」、「アルギニン」、「ロイシン」、「イソロイシン」、「パリン」、「メチオニン」、「ヒスチジン」等が利用されているようです。
我々は天然の食品をそのまま摂取するだけでなく、保存し、うまみを付加し、料理として利用してきましたが、保存食品には発酵によりたんぱく質が分解され種々のアミノ酸が生成するため、さまざまなその土地の味が作られているのだと言われています。例えば日本の味噌や醤油(しょうゆ)、東南アジアの塩辛や魚醤(ぎょしょう)、ヨーロッパではチーズやアンチョビ、アフリカでは豆を発行させたダワダワやスンバラと言われるものがあり、その他の地域でも古くから使われている様々な発酵食品があります。
それぞれの味を持ったアミノ酸の組み合わせから、新しい味や機能が開発されています。例えば酸味とわずかな甘味を持った「アスパラギン酸」と苦味のある「フェニルアラニン」から砂糖の200倍もある甘味を持った「アスパラステーム」が作られました。
「アスパラステーム」は体内でアミノ酸として代謝されるため、カロリーが抑えられ、血糖値に影響を与えません。このためダイエットのためのカロリーコントロールや糖尿病の人のための栄養管理に使用されているようです。
2)スポーツ用途への着目
現在ではスポーツ用途でアミノ酸の利用が注目されています。主たる目的としては、筋力の向上、持久力の向上、疲労回復のためです。
筋肉はアクチンとミオシンというたんぱく質で出来ています。このたんぱく質は前述しましたが、分岐鎖アミノ酸と呼ばれる「ロイシン」、「イソロイシン」、「バリン」と言うアミノ酸で構成されているており、これを補給することが筋肉組織の増強につながります。
私達の身体は激しい運動や、長時間のランニング等で不足してくるエネルギー源を補給するため、筋肉の組織が消費され、損傷していきます。この激しい運動の途中でこのアミノ酸をタイミングよく補給すると、筋肉の損傷が軽減され、筋力の低下が抑えられるというわけです。
3)健康維持への利用
私達の身体を構成するたんぱく質は毎日生成と分解を繰り返しています。食事で取り入れられたたんぱく質は吸収、分解され、肝臓に達するまでにほとんどは何種類ものアミノ酸になり、代謝され、老廃物になり排泄されます。
前述のように身体を構成するたんぱく質は20種類のアミノ酸からなっており、この内10種類は他のアミノ酸から合成されますが、2種類は主として幼児期に不足するもので、準必須アミノ酸と呼ばれ、残り8種類は体内で合成することが出来ず必須アミノ酸と呼ばれ、食事からの摂取が不可欠です。食事はバランスよくとることが大事で、もし偏る場合には必要なアミノ酸をサプリメントで補うことが大事です。
4)医療用途の開発
1950年代に、日本で手術後の患者に対する栄養補給のためアミノ輸液が採用されましたが、これがアミノ酸の医療用途導入の最初であると言われています。主な医療用途のアミノ酸について簡単に述べます。
当初輸液はたんぱく質を前提として開発されましたが、たんぱく質を含んだ輸液では体内で激しい拒絶反応が起こり、実際に使用はできませんでした。現在広く医療分野で使用されている高カロリー輸液は、生命維持に必要なたんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大要素で構成されていますが、これはたんぱく質の代わりにアミノ酸の混合物を使ったものです。
肝不全の患者は血中の分岐鎖アミノ酸の濃度が低く、芳香族アミノ酸の濃度が高いのが特徴です。このようなアミノ酸のアンバランスは肝性脳症を起こしやすく、これを防ぐためにアミノ酸のバランスを工夫したアミノ酸製剤が開発されています。
又、食事の中のたんぱく質は代謝され、アミノ酸になります。代謝されたアミノ酸は尿素という老廃物になります。尿素の排泄が上手くいかない腎不全の患者さんは人工透析を受け、食事療法としてのたんぱく質摂取制限があります。たんぱく質摂取の制限は血中の必須アミノ酸の低下をもたらしますので、身体の機能維持のため不足する必須アミノ酸補給するための必須アミノ酸を主要要素にした、腎不全の患者用の製剤もあります。
ある調査によると、世界の医薬品売り上げのうち、アミノ酸が医療中間体として原料に使われているものが約18%あると言われているようです。
5)美容用途の発見と今日の隆盛
我々の身体の約60%は水分と言われていますが、この水分を保つためには皮膚は重要な役割をしています。皮膚は角質層、表皮、真皮、皮下脂肪から成り立っています。角質層の中にあるMNFと呼ばれる保湿因子にとって重要なものがアミノ酸です。表皮の細胞が死んで角質層になるときに細胞内のたんぱく質が分解し、アミノ酸になって、角質層に供給されると言われています。一説によると肌の天然保湿因子の約50%はアミノ酸とアミノ酸の一種のグルタミン酸からできる化学物質であると言われています。
肌の美容成分として知られているコラーゲンも実はいろいろなアミノ酸で構成されていると言われています。又、肌のがさつき、くすみはアミノ酸の不足によると言われており、アトピー性皮膚炎や花粉症の人は通常の人に比べ、アミノ酸が不足している人が多いと考えられています。
・サプリメントとしてのアミノ酸
上に述べたような目的に関し、効率よくアミノ酸を摂取するため、最近ではアミノ酸を主成分としたサプリメントが数多く市販されています。サプリメントを効率よくとるためには、
- a)配合成分がアミノ酸であること
- b)自分の目的に合ったアミノ酸が配合されていること
- c)十分な量のアミノ酸が配合されていること
- d)日常的に摂取する場合は粉末又は錠剤を、補助的に摂取する場合はゼリー又はドリンクでの使用が良いと思います。
以上に述べたことはアミノ酸の通常利用されている用途ですが、最近これ以外にも繊維のトリートメント剤としてのアミノ酸の優れた効用が発見され、利用され始めました。次回では新しく利用されつつある繊維のトリートメント剤の効用と利用方法を述べます。
皮膚の健康には保湿性が非常に大切であることが解明されている。皮膚(肌)は内側から、真皮、表皮、角質層というおおむね3つの層の構造になっている。特に角質層は厚さわずか0.01ミリほどのものであるが、外界の環境から身を守る最前線のバリアーとして重要だ。皮膚近くの細胞は分裂により内部から押し出され、やがて(垢などとして)死んで剥げ落ちてゆくが、最後の行動のひとつが「保湿性」の発揮だ。角質層の構造はレンガとその間にあるモルタル (セメント)に例えられる。レンガ(角質そのもの)は線維質の「ケラチン」が主成分で水分一定にを保つ機能を持つ。モルタル部分に当たる「細胞間物質」は、周囲の角質にさらに保湿性と吸湿性を与える役目を持つ。
この細胞間物質はNMF(天然保湿成分)と呼ばれる。いわゆる「肌荒れ」はこれら角質部分が乾燥状態になり、バリアの能力が衰えて、滑らかさを無くし、ガサガサの状態になることになる。実はこの乾燥を防ぐNMFの約50%近くがアミノ酸である。アミノ酸は内部の真皮や、また死んでゆく角質細胞からも分解して供給され合成される。
そこで老齢化やアトピー症状のように自力でのNMFの供給量が不足している人にとっては、アミノ酸の酸を補充することが効果的な手段となるのだ。
(執筆 西郷久忠)
第3回に続きます